<社説>米軍通告なく訓練 県民の安全軽視許さない


この記事を書いた人 琉球新報社

 民間地域を巻き込む軍事訓練は大きな危険を常に伴う。訓練場所と実施日時を関係機関に連絡し、県民に知らせるのは当然だ。その常識が働かないのは、組織が劣化しているためと断じるしかない。

 米海兵隊が読谷村に事前通告することなく、大型ヘリコプターの車両つり下げ訓練を実施した。米陸軍トリイ通信施設を飛び立ったヘリは海側に向かい、低空飛行する様子が確認されている。
 周辺海域は米軍への提供水域だが、漁業は制限されていない。一般の船舶が航行していた可能性がある。県民の安全を守るには、事前通告は米軍の最低限の義務だ。米軍にその認識はあるだろうか。
 訓練実施を伝えることは大した手間ではない。米軍はなぜ、その簡単なことを常時できないのか。
 事前通告なしの訓練は今年も相次いでいる。1月には米空軍がうるま市の津堅島訓練場水域で、抜き打ち的にパラシュート降下訓練を実施した。米空軍は「津堅島水域を使用する場合、通常は海兵隊が日本側に通告するが、事務的ミスがあった。謝罪したい」とした。
 謝罪するからには、事前通告の必要性を米軍も認識しているのだろう。それでも短期間に事前通告なしの訓練を繰り返す要因は、米軍の組織に構造的欠陥があるか、危機意識が著しく欠如しているか、県民の安全を軽視しているかのいずれかだ。
 トリイ通信施設では3月にも大型の物体をつり下げた訓練を実施している。津堅島水域でも市などの中止要請を無視して降下訓練を強行した。関係する自治体や議会の抗議、中止要請を一顧だにしない米軍の姿勢は許し難い。
 読谷村で1965年、パラシュート訓練で投下されたトレーラーに小学5年の女児が押しつぶされ、死亡した。その後も落下事故は続いている。米軍は危険性が明らかなつり下げ訓練やパラシュート降下訓練を即刻廃止すべきだ。
 米軍が傍若無人に訓練しているのは、物言わぬ政府に大きな責任がある。
 ドイツ駐留米軍はドイツ側への訓練計画の事前提出は義務で、イタリア駐留米軍はイタリア側と訓練内容を調整し、許可を得る仕組みだ。一方、日本では日米地位協定で、米軍に訓練計画の事前通告義務はない。日本が主権を回復し、県民の安全を守るには少なくとも地位協定を改定する必要がある。