<社説>新基地以外の条件 普天間協議のやり直しを


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 名護市辺野古の新基地が完成しても、米軍普天間飛行場が返還されない可能性が出てきた。

 普天間の返還条件について2013年、日米が8項目の返還条件で合意した。政府は県に8条件の詳細な説明をせず「辺野古が唯一」と主張、辺野古新基地が完成すれば普天間は返還されると思わせる説明を繰り返してきた。
 しかし、稲田朋美防衛相は突然、新基地建設が進んだとしても、それ以外の返還条件が満たされない場合は普天間が返還されないと明言した。
 06年に辺野古への代替施設建設計画や米軍再編で日米は合意したが、この11年間で中国の台頭や北朝鮮の核・ミサイル開発などによって安全保障環境は急激に変化した。
 米ジョージ・ワシントン大のマイク・モチヅキ教授(日本政治、日米関係論)は「朝鮮半島有事の際、沖縄は遠すぎる」と指摘し、新基地建設は抑止力にならないという見解を示している。これまで政府が示した根拠が消えたことになる。「辺野古が唯一」は官僚が定着させた「神話」だとも指摘している。
 「神話」に基づいて新基地建設工事を強行していることによって、ジュゴンをはじめ貴重な生物が生息する海域を破壊し、国民の税金を無駄遣いし続けている。唯一の選択肢ではないのだから普天間移設協議のやり直しを求める。
 米軍は8条件の一つとして緊急時の民間空港の使用を求めている。県は那覇空港と推測するが翁長雄志知事は県議会で「那覇空港は絶対に使用させない」と明言した。
 那覇空港の滑走路は2本になっても飛行機の発着はわずか1・17倍にしかならない。米軍の嘉手納飛行場への進入経路があるからだ。米軍機の緊急使用はもってのほかだ。
 条件が満たされない場合、新基地が完成しても普天間が返還されないとなれば、本島内に辺野古と普天間の二つの海兵隊飛行場が併存することになり、政府が繰り返す沖縄の「負担軽減」という移設問題の根本を覆すことになる。
 仲井真弘多前知事が埋め立て承認と引き替えに政府に求め、政府が約束した「5年以内の運用停止」も成立し得ない。政府の約束が「空手形」であることは明らかだ。
 そもそも県内移設にこだわるから8条件を付けられたのである。民間のシンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」の提案は傾聴に値する。海兵隊の各部隊は約半年ごとのローテーションで沖縄に駐留している。沖縄はローテーション部隊と佐世保からの揚陸艦を合流させる「ランデブーポイント(落ち合い場所)」として機能している。ND提言は海兵隊が運用を見直すことで「ランデブーポイントは沖縄でなくてもよい」としている。
 安倍政権と官僚の岩盤のような思考を転換すれば、新基地を建設することなく普天間問題を解決できるはずだ。