<社説>「共謀罪」法施行 国会解散し廃止論議を


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 犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」法がきょう施行される。

 この法律は監視社会を招き、憲法が保障する「内心の自由」を侵害する。捜査機関の権限が大幅に拡大し、表現の自由、集会・結社の自由に重大な影響を及ぼす。
 国会で法案審議の際、政府は立法府と真摯(しんし)に向き合わず、曖昧な説明に終始した。審議時間が不十分なまま、与党が参院法務委員会の採決を省く「中間報告」という奇策を使って強行採決し、成立させた。共謀罪を巡る問題を置き去りにしたまま施行されることに強く抗議する。
 国会審議の機会を奪って「数の横暴」で成立させたことは、立法府としての責任放棄である。責任が持てないのだから、国会を解散して新しい議員によって廃止に向けた議論をすべきである。
 政府は共謀罪法の必要性をテロ対策強化と国際組織犯罪防止条約の批准に必要だと説明した。しかし条約はテロ対策ではなく、マフィアや暴力団による金銭的利益を目指した組織犯罪を対象としている。テロ対策に必要だというのはごまかしにすぎず、法律をつくる正当な目的がない。
 政府は法律の適用対象を「組織的犯罪集団」としている。犯罪集団のメンバーらが2人以上で犯罪を計画し、少なくとも1人が現場の下見などの「準備行為」をすれば全員が処罰される。犯罪実行後の処罰を原則としてきた日本の刑法体系を大きく変える。
 安倍晋三首相は当初、一般市民は対象外と説明したが、後に「犯罪集団に一変した段階で一般人であるわけがない」と答弁を変えている。そもそも誰が誰を「一般市民」と決めるのか。
 警察が風力発電計画に関する勉強会を開いた地元住民の個人情報を収集したり、選挙違反を調べるため労働組合事務所を隠し撮りしたりしたケースが国会審議で取り上げられた。政府は通常の警察活動だと言い切ったが、通常でもこのような行き過ぎた捜査が行われている。
 共謀罪法によって、犯罪が行われていない段階で捜査機関が故意の有無を判断するのは、「心の中」に踏み込むことになる。このままでは広範かつ日常的に室内盗聴や潜入捜査などによって市民が監視される恐れがある。法律が拡大解釈されて冤罪(えんざい)を生む可能性は消えていない。
 国連も法案を懸念している。プライバシーや表現の自由を不当に制約する恐れがあるとして、国連特別報告者が安倍首相宛てに書簡を送った。日本政府が「不適切」と抗議すると「深刻な欠陥がある法案をこれだけ拙速に押し通すことは絶対に正当化できない」と批判している。
 東京都議選で自民党は安倍政権の強引な国政運営が影響して、議席を減らした。民意に向き合わない「安倍1強」政治について、国民の審判を仰ぐ時期にきている。