<社説>日欧EPA大枠合意 国内生産者守る施策示せ


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 日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)が大枠で合意した。世界の国内総生産(GDP)の約3割を占める巨大経済圏が誕生する。

 日本は合意を急ぐあまり、農業で譲歩を重ねた。豚肉の段階的な関税撤廃もあり、沖縄にも影響が懸念される。
 豚肉は低価格帯の従量税(1キロ当たり482円)を10年で1キロ当たり50円にまで削減する。高価格帯の豚肉にかかる従価税は10年目までに撤廃する。安い豚肉の輸入が急増した場合に発動する緊急輸入制限措置は、環太平洋連携協定(TPP)よりも発動しにくい基準となった。
 いわゆる「霜降り」で外国産と差別化を図る和牛と異なり、豚肉は国産と外国産に大きな差をつけにくい。
 ブランド豚「アグー」や産地表示が保護される泡盛など一部に好機はあるかもしれないが、欧州にもスペインのイベリコ豚など国際的に評価の高い農業ブランドがある。結果的に価格競争になるのであれば、国内の農林水産業には大きな打撃でしかない。
 しかも沖縄にとっての豚肉とは単なる食べ物ではない。晴れの日の祝いの食であり、王朝時代から受け継がれてきた文化でもある。中には血イリチャーや中身の吸い物など他の地域では捨てられるかもしれない部位を使った料理もある。そうした食文化が危機にならないか。産業以外の面でも影響が大きいのだ。
 豚肉以外に目を向けても、焦点とされたチーズの低関税輸入枠は初年度の2万トンから16年目に3・1万トンに拡大し、最終的に無税となる。
 農林水産省によると、国産のナチュラルチーズ生産量は2014年に4万6千トンあった。将来的に国内生産量の3分の2に当たる量が欧州から入ってくる。手厚い保護政策や大規模農場に支えられた欧州の生産者と、国内の生産者が同じ土俵で戦えるとは思えない。
 TPP交渉の際も同様だったが、今回の日欧交渉も拙速であり、密室での議論だったことを多くの識者が批判している。最終段階まで交渉内容は国民に明かされなかった。
 JA沖縄中央会の砂川博紀会長が「情報開示のない秘密交渉による結論ありきの演出」と憤るように、国民、生産者不在の交渉は全く納得できる結果ではない。
 背景には森友・加計問題に始まる不信感増幅や閣僚らの暴言、失言による東京都議選の惨敗を受けた安倍政権の人気回復策が見え隠れする。
 TPPで聖域とされた乳製品で大幅な譲歩をしたのが、その証しだ。重要品目の聖域確保を求めた国会決議に反する。政権浮揚や自由主義経済の旗振り役という手柄欲しさに農業を売り渡したといわれても仕方あるまい。
 政府は国会で秘密交渉の過程を説明する責任がある。同時に持続的な成長や競争力強化に向けた施策をすぐに明示してもらいたい。