<社説>福島原発訴訟判決 指針見直し救済拡大を


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 津波を予見できたのに対策をせず放置した責任は重い。

 東京電力福島第1原発事故の被災者約3800人が起こした集団訴訟で、福島地裁は国と東電の責任を認め総額約5億円を支払うよう命じた。
 国の中間指針に基づいて東電が支払っている慰謝料を上回る賠償を認め、被害救済の対象を広げた。現状の賠償制度の不備を浮き彫りにした判決だ。国と東電は判決を真摯(しんし)に受け止め、被災者に誠実に向き合うとともに、指針を見直して救済を拡大すべきだ。
 裁判で焦点になったのは、政府機関が2002年7月に発表した地震に関する「長期評価」の信頼性だ。福島沖で大きな津波を伴う地震が起きる可能性を指摘していた。
 福島地裁は「長期評価」を客観的かつ合理的根拠を有する知見として「研究者の間で正当な見解と是認され、信頼性を疑うべき事情はない」と判断した。
 「長期評価」に基づき直ちに試算すれば、国と東電は敷地を大きく超える15・7メートルの津波を予見可能だったと指摘。国が02年中に東電へ対策を命じていれば事故は防げたとして「国の規制権限の不行使は著しく合理性を欠いていた」と結論付けた。
 3月の前橋地裁判決に続き国の責任を認めた。もはや「想定外だった」と言い逃れはできない。
 ただし、原子炉施設の安全性確保の責任は第一次的に原子力事業者にあり、国の責任は監督する第二次的なものとし、国の賠償責任の範囲は東電の2分の1とした。だが、国策として原子力発電を推進したのだから、国にも一次的な責任があるだろう。
 もう一つの争点は、賠償基準を定めた国の中間指針の範囲を超える賠償を認めるかどうかだ。この賠償基準は被害実態とずれ、賠償の格差を生み、被害者を分断していると指摘されてきた。
 今回の判決は、地域ごとの放射線量や被ばくへの不安感などを基に賠償額を決定した。避難区域外の福島県の原告に賠償の増額や、県外の原告も対象とするなど幅広く認定した。国の指針を超える賠償命令は前橋地裁、9月の千葉地裁に続き3地裁連続だ。指針では救済が不十分と司法が判断したことになる。
 原発事故の集団訴訟は、全国各地で約30件起こされ、1万人以上が原告として参加している。今回の訴訟には沖縄に避難した原告が含まれる。
 被災者や避難者が集団提訴する中で、原子力規制委員会は東電柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)の再稼働に向けて事実上の「合格」を出した。予見できたにもかかわらず未曽有の事故を起こした当事者である東電に、再び原発を運転する資格はあるのか。
 事故から6年7カ月。今も5万人超が福島県内外で避難生活している。住みたい場所で平穏、安全に社会生活を営む権利が侵害されていることを忘れてはならない。