<社説>9条に自衛隊明記 改憲の必然性はない


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 なぜ改憲するのかという本質的な議論が置き去りにされ、自民党内の反対を押し切ったという印象だ。

 自民党の憲法改正推進本部は、憲法9条について戦力不保持と交戦権の否定を定めた2項を維持しながら、別立ての9条の2を新設して自衛隊保持を明記する方向性が決まった。
 自衛隊保持の明記は9条1、2項と矛盾する。そうなれば「後法優先の原則」からして1、2項は空文化するとの憲法学者の指摘もある。平和憲法の根幹である9条を変える必然性はまったくない。
 防衛省は憲法ではなく通常法を根拠に設置している。自衛隊が憲法に明記されれば、防衛省より上の存在となり、文民統制の観点から問題が生じるのではないか。
 憲法改正推進本部の執行部は当初「必要最小限度の実力組織」として自衛隊の保持を掲げる案を提示した。自衛隊は9条で不保持を定めた「戦力」ではないという政府解釈を踏襲したからだ。
 しかし今回の条文案から「必要最小限度」との文言が削られ「必要な自衛の措置」という文言が入った。「必要な自衛の措置」という言葉を口実にして、自衛隊の任務や武器の能力、部隊の運用の範囲などがどんどん拡大する可能性がある。
 そうなると専守防衛という自衛隊の役割が大きく変わる。現在は限定的な行使にとどまる集団的自衛権の範囲が広がる可能性がある。
 そもそも現在の党内の憲法論議は、昨年5月3日に安倍晋三首相が9条1、2項を残して自衛隊明記を提案し、党内議論が本格化した。党憲法改正推進本部が集約した改憲案は安倍首相が提案した内容そのままである。強引な一任取り付けは、初めから結論ありきだったのではないか。
 今年3月の共同通信社の世論調査で、安倍首相が目指す憲法9条の自衛隊明記案について反対が48・5%、賛成が39・2%で、同じ質問をした1月の調査と同様に反対が上回る傾向が続いた。国民との乖離(かいり)を自民党は真摯(しんし)に受け止めるべきだ。
 一方、自民党が改憲を目指す4項目のうち参院選「合区」解消は、1票の価値の平等や衆参両院の役割分担などの重要な論点に応えていない。拙速に改憲に結び付けず現行憲法の下で可能な方法を探るべきだ。
 教育の充実として、26条に「教育環境の整備に努めなければならない」を加える。だが26条は「ひとしく教育を受ける権利を有する」と明記している。既に教育環境を整備する責務を国に負わせているので改憲する必要はない。
 緊急事態の新設は論外である。憲法は国家権力を縛る規範である。「政府への権限集中」「私権の制限」は、立憲主義の原則に反する。災害対策基本法などで対処すればいい。自民改憲4項目に必要性を見いだせない。