『米国アウトサイダー大統領』 中東との関わりが軸


社会
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『米国アウトサイダー大統領』山本章子著 朝日新聞出版・1620円

 本書は6名の“米国アウトサイダー大統領”-アイゼンハワー、カーター、レーガン、クリントン、ブッシュ、トランプ-の諸政策を概観したものである。本書はアウトサイダーを「中央政府に関わった経験のない」という意味で捉え、戦後米国の軍事介入件数がアウトサイダーではない大統領と比べて中東地域に多いという特徴を抽出する。従って本書の叙述も、アウトサイダー大統領と中東との関わり方がひとつの軸として重視される。

 第1章は、カーター政権のイラン革命への対応失敗、レーガン政権のイラン・コントラ事件、ブッシュ政権の「テロとの戦い」の泥沼化を事例としつつ、米国国内の産業構造の変化とそれに伴う経済政策の変容を説明する。

 第2章は、冷戦後の唯一の超大国という自画像をクリントン、ブッシュが無批判に前提とした結果として、米欧関係の溝が生み出され、欧州の対米自立が促されたことを、NATOの拡大とイラク戦争を事例に論ずる。

 第3章は、日米「同盟」における日本側の動向について、アイゼンハワー期に構築された新安保体制を土台に、カーター・レーガン期に地域防衛への関与を米国から要求されはじめ、ブッシュ期に日本が国際貢献の名の下で対テロ戦争支援に踏み出す過程を描く。

 第4章は、トランプ政権にフォーカスし、当選に至る国内世論、「IS殲滅作戦」や対アフガニスタン作戦における米軍増派をめぐる動向について分析する。

 1970年代からの経済力の相対的低下という現実を前にして、資本主義陣営の盟主・唯一の超大国という米国の自画像が揺らぐとき、それへの対応が期待されてアウトサイダー大統領が登場するという見方は大変興味深い。例えばカーターは覇権衰退という現実を国民に自覚させようとし、レーガンは逆に米国を再び偉大にするという理想を掲げて対応したという。

 本書は米国社会を主に論じたものであるが、「経済大国」という自画像に縛られ、「強い日本を取り戻すこと」にまい進する日本の在りようを理解する一助にもなろう。(池上大祐・琉球大学准教授)

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 やまもと・あきこ 1979年北海道生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。沖国大非常勤講師。同大学沖縄法政研究所特別研究員。著書に『米国と日米安保条約改定-沖縄・基地・同盟』など。

 

米国アウトサイダー大統領 世界を揺さぶる「異端」の政治家たち (朝日選書)
山本章子
朝日新聞出版 (2017-12-08)
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