本書は、膨大な各国地位協定の事例を比較検討し、日米安保の上で惰眠を貪る国民を覚醒させる啓蒙の書である。
その本書を読む限り、残念だが、日本は戦後72年を経た今も、敗戦で「主権」を喪失したままの「半占領国家」である。「アメリカと地位協定を結んでいる他の国々と比べても、日本の『主権放棄』ぶりは際立っている」という。
英国では2014年1月の米軍ヘリ墜落事故時に、英州政府警察が現場を制圧し、現場検証も州警察が主導した。だが16年12月の沖縄での米軍オスプレイ墜落事故では、米軍基地外の事故だが海上保安庁の捜査申し入れは米軍に無視される屈辱的な対応だった。そんな個別具体的な事例がたっぷりと本書で紹介されている。
「ドイツもイタリアも韓国もフィリピンもアフガニスタンもイラクも、みんな主権を主張してアメリカと粘り強く交渉し譲歩を引き出してきたのに、なぜ日本だけはそれをしないのか」。この国の政治家や官僚、国民への率直な疑問がぶつけられる。
その答えは「いざという時はアメリカに守ってもらわないといけないのだから、日米地位協定の特権ぐらいは仕方ない」と国民の多くが思っているからだ。しかし、いざという時にアメリカは本当に日本を守ってくれるだろうか。
「アメリカの仮想敵国の真正面に位置する日本」は、仮想敵国の進出を抑える「防波堤=緩衝国家」に過ぎず、アメリカの代わりに狙われ、戦場になるのが「緩衝国家・日本」の役目だという。緩衝国家の中で、本土の反米運動抑止のために米軍基地を集中配置され、基地被害に呻吟(しんぎん)する「国内で最も差別された地域・沖縄」。その沖縄を「愛国心を装って攻撃する」本土国民に「アメリカの掌の上で愛国心の発散はもう止めよ」と呼び掛ける。
半占領国家・日本が独立国家になる方法が「米国が望む場所を望む期間、望む数の軍隊を駐留させる権利」を認めた「占領の残滓=日米地位協定」の抜本改定という。事実に基づく結論に反論の余地はない。
(前泊博盛・沖縄国際大学教授)
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いせざき・けんじ 1957年東京都生まれ。東京外大大学院教授。国際NGOで10年間、アフリカの開発援助に従事。03年からはアフガニスタンの武装解除を担った。主な著書は『武装解除 紛争屋が見た世界』など。
ふせ・ゆうじん 1976年東京都生まれ。ジャーナリスト。「平和新聞」編集長。『ルポ イチエフ 福島第一原発レベル7の現場』でJCJ賞などを受賞。主な著書は『日米密約 裁かれない米兵犯罪』など。
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