『ノロ―北中城村「島袋のろ殿内資料を通して」』 多角的に実態捉える


社会
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『ノロ―北中城村「島袋のろ殿内資料を通して」』北中城村教育委員会編 北中城村教育委員会

 地域に分け入り、地域の歴史・文化を調査探求し記述する―、地域史編纂(へんさん)の事業は、時に大きな驚きと発見をもたらす。2011年4月に北中城村字島袋のノロ殿内家(屋号)で発見された資料は衝撃的であった。ノロやその祭祀(さいし)に関する文書、祭具・衣装など総計248点に及び、中には王府が島袋ノロを任命した1651年の辞令書も含まれていた。本書は、その『島袋のろ殿内資料』についての5年余にわたる調査研究の成果である。

 資料をどう読み解いていくのか。本書は、理解の枠組みを村内という地域にとどめず、中城村を含めた旧中城間切、さらにかつての琉球王国の範域であった奄美・沖縄に広げた。また、古文書などの史料に当たるだけではなく、聞き取り調査や祭祀調査によって得られた資料を踏まえて考究されている点において、貴重なノロ調査報告書となっている。

 内容は大きく解説編と資料編に分けられる。解説編は12人の執筆者によるもので、9章からなる。ノロ制度の概要を扱った琉球・沖縄の宗教社会史の中のノロ、ノロの祭祀儀礼、継承と就任、シマの中のノロ殿内、家族と親族、ノロの役地などの経済基盤、衣裳と祭具、文書と収納容器、葬墓制である。村落におけるノロの実態を多角的な視点から立体的に捉えんとしている。

 資料編は『島袋のろ殿内資料』の文書46点の翻刻と通釈に加え、中城間切・旧中城村のノロ関係史料8点を収録している。中心をなす『島袋のろ殿内資料』は祭祀費用に関するもの、就任・継承に関するもの、ノロの役地に関するもの、その他と大別でき、近世から近代におけるノロの実相を探ることのできる資料であり、解説編諸論考の基礎となっている。

 いずれの論考も、綿密な史料分析と先行研究の丹念な整理と検討を踏まえ、さらに調査に拠る新たな資料を併せて考察し、時間的深みと空間的な広がりの中で『島袋のろ殿内資料』を意味づけている。本書は、この分野での名著として知られる宮城栄昌『沖縄のノロの研究』を継ぐ労作だといえ、地域史編纂事業の新たなモデルを提示しているといえよう。

 (稲福みき子 沖縄国際大学名誉教授・沖縄民俗学会会長)

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 「島袋のろ殿内資料」編纂は2011年、北中城村史文献資料編の編纂過程で、島袋の喜屋武家から見つかった資料がきっかけ。その後、喜屋武家が村教育委員会に資料を寄贈。村教委は専門部会を立ち上げ、翻字・解読をしながらまとめた。