『明日を生きるウチナーンチュへ』 現在と未来への道標


社会
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『沖縄の新聞人 山根安昇遺稿集 明日を生きるウチナーンチュへ』 新星出版・2160円

 山根安昇氏の「遺稿集」が世に贈られた。山根は自らの戦中、戦後体験の教訓を文筆に生かした、沖縄新聞人を代表する一人である。遺稿集の構成は、Ⅰ時局評論 Ⅱ随想 Ⅲ新聞連載 Ⅳ追悼となっていて、時局評論では「日米関係と沖縄の過去・現在・未来」「沖縄戦とメディアの変遷」「屋良朝苗の歴史的評価」などが、また新聞連載では「南米の大地に生きる人々―『世界のウチナーンチュ』南米編抜粋―」が収録され、随想、追悼を含め、明日を生きるウチナーンチュへ大きな示唆を与える内容になっている。

 八重山高校、琉球新報同期で、遺稿集刊行会の三木健は追悼集末尾に「解題 底流に沖縄魂と反骨精神―山根安昇の人生と書き残したもの―」で、終末を迎えた山根は三木に対して「ぼくがどんなことを考えていたのかを、残しておきたい」と話したという。この三木への依頼、遺言がこのたびの遺稿集になったわけだが、魂が揺さぶられる感動を何度味わったことか。本書を世に贈った刊行会の各位にも敬意を表したい。「山根安昇遺稿集」は、今を生きる若い世代にとって、戦後学習の良い「教科書」にもなるだろう。

 ところで、辺野古護岸工事が強行されてから1年を迎えた4月25日、陸・海で抗議行動が展開される中、辺野古の浜では73連の黒い“連だこ”が舞ったという。「73年間喪に服している沖縄」「陸・海に加え、空からも不条理に抗議する意志」が示された。その記事は、私の心を天空に導いた。いまは天上人となった山根だが、天界に在っても屋良さんをはじめとするグソー(あの世)の親ファーフジ(ご先祖様)の魂を結集するために働いているような気がしてならない。

 山根は天界でも、安らかに眠ってなどいられないのではないか。天・地・海の象徴といわれる「三本ウコウ」を炷(た)いて、山根と対話したい不思議な気分になるのだ。

 本書は、きっと現在と未来への道標となって、世に貢献するだろう。戦中、戦後派は勿論(もちろん)、多くの若い世代にもお勧めしたい1冊である。

(元沖教組委員長・石川元平)

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 やまね・あんしょう 1939年石垣市生まれ。65年琉球新報入社。政経部、社会部、事業局長、取締役副社長などを経て04年退任。15年沖縄のマスコミを支える会共同代表就任。17年3月病気のため死去。