琉球弧7唄者共演 奄美―沖縄―宮古―八重山 悲哀、恋の歌紹介


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中野律紀(後列左)、前山真吾(同右)の歌う「ヨイスラ節」に乗せて姉妹神信仰を踊りで表現する宮城小寿江(前列右)、神谷武史=13日、浦添市の国立劇場おきなわ

 国立劇場おきなわの三線音楽公演「唄方 島ぬうらみ節・なさき節」が12日、浦添市の国立劇場おきなわで開催された。元THE BOOMの宮沢和史が演出とナレーションを務めた。琉球弧の島々から若手を中心に7人の唄者が出演し、苦難の歴史から生まれた歌や恋の歌を紹介した。舞踊家の宮城小寿江と神谷武史が各曲をテーマにした創作舞踊を披露し、歌の世界を伝えた。島々の共通点や違いが感じられ、演者たちも絆を深めた。

 宮沢は沖縄民謡245曲を収録したCD「沖縄 宮古 八重山民謡大全集(1) 唄方~うたかた~」を2017年に製作し、図書館や学校などに寄付した。今年からは今回の公演などを通してCDを普及するとともに、CDに付いている歌詞集を改訂した2版の製作を進める。

 公演は奄美大島出身の中野律紀、前山真吾による「諸鈍長浜節」「長菊女節(ちょうきくじょぶし)」で始まった。「諸鈍長浜節」は琉球古典音楽の「諸鈍節」「しゅんどう節」などとの類似性が指摘されている。だが、聴く者の胸をかきむしるような哀愁漂う歌唱は奄美独特のものだ。

 奄美には沖縄や八重山と同じく姉妹(をぅなり)神信仰がある。中野と前山は姉妹神信仰を主題とした「ヨイスラ節」も歌った。宮城と神谷の舞踊では姉妹神が海人を守っている様子を表現した。

八重山の悲哀を感じさせる歌を歌う比嘉真優子(左)と黒島新

 石垣島出身の比嘉真優子と黒島新(すすむ)は、八重山の強制移住の歴史から生まれた「崎山節」「つぃんだら節」などを歌った。優しさと哀愁が共存する旋律と島の香りあふれる歌唱で魅せた。

 普段はギターを手にオリジナル曲を歌う、下地イサム(宮古島出身)は三線を手に恋歌の「伊良部トーガニー」を披露した。ささやくように優しく歌い、個性を発揮した。

 金武町出身の喜友名朝樹は「下千鳥」を歌った。今回は沖縄戦で子を失った親の悲しみを描いた歌詞で歌い、若手ながら渋い歌声を聴かせた。喜友名は伊江島出身の知念こずえと「白骨節(しらくちぶし)」も歌った。心中するつもりだったが恋人に捨てられ、1人で死んだ女性の悲しみを歌っている。宮沢にとって、戦争で捨て石にされた沖縄の姿とも重なるという。宮城と神谷が写実的な舞踊を添えた。

 最後は奄美・八重山の「六調」、宮古の「漲水の声合(くいちゃー)」、沖縄本島のカチャーシーといった各地域の締めくくりの歌を披露した。国立劇場では珍しく観客が立ち上がって踊り、熱演に応えた。前山は「近い世代の仲間とそれぞれの島の歌を歌い合い、奄美も琉球のきょうだい島なんだと確信した」と話した。

 宮沢は「民謡は酒の場で聴くことが多いが、今回の公演のように、いろんな切り口で紹介する場をつくりたい。若い唄者に大舞台を経験してもらうとともに、若い民謡ファンもつくっていきたい」と話した。
(伊佐尚記)