『あま世へ―沖縄戦後史の自立にむけて』 当事者の情念にこだわる


社会
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『あま世へ―沖縄戦後史の自立にむけて』 森宣雄、冨山一郎、戸邉秀明著 法政大学出版局・2916円

 どのような書物として紹介すべきか、途方に暮れる本である。そこで「この本は現在にいたる戦後沖縄社会運動史・思想史の異世代の当事者たちと、異郷からの聞き手・研究者たちによって織りあげられた共同制作物」だとする編者の言葉(12ページ)に従って説明すると、「当事者」として新川明・川満信一・松島朝義の3氏が、「聞き手・研究者」として鹿野政直・戸邉秀明・冨山一郎・森宣雄の四氏が登場し、戦後沖縄の社会運動史・思想史をめぐる思索・対話を試みた本ということになる。

 ただしその視点は、社会運動や思想の変遷を通史的・俯瞰(ふかん)的に記述しようとするものではない。各人の経験や情念にこだわることによって、そしてそれが世代をまたいでどのように引き継がれてきたのかを問うことによって、本書は「戦後沖縄のデモクラシーの見えない水脈をたどる」(3ページ)ことを試みている。

 その起点に位置付けられているのは、1950年代半ばに人民党の一員として占領政策に対峙(たいじ)しようとした国場幸太郎氏の存在感であり、国場氏が晩年まで重視していた「沖縄の党」という問題である。その視点は、第I部の3氏に対するインタビューにおいて、きわめて具体的な体験談の端々に顔を出している。

 それをふまえた上で、帝国と植民地をめぐる第II部の問題提起に目を向けるとき、本書が掲げる「あま世」という言葉に込められた意味が、おぼろげながら見えてくる。それは端的に言えば「沖縄の解放」なのだが、そのときに「沖縄」が何を意味し、何を指し示す言葉なのかは、それほど自明なことではない。

 それゆえに、各自の世界観を問い直すかのような「歴史の自立」というテーマが第III部の座談会で登場するのだが、そこで交わされる言葉は、何らかの結論やビジョンの提示を志向しているわけではない。「あま世」への道のりを想(おも)い描くこと、それとともに人々の関係性が変わっていくこと―それが本書の最大のメッセージであるように思われる。
(鳥山淳・沖縄国際大学教員)

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 もり・よしお 1968年横浜市生まれ。同志社大〈奄美―沖縄―琉球〉研究センター学外研究員
 とみやま・いちろう 1957年京都市生まれ。同志社大グローバル・スタディーズ研究科教授
 とべ・ひであき 1974年千葉県生まれ。東京経済大経済学部准教授。

あま世へ: 沖縄戦後史の自立にむけて
法政大学出版局
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