本書によれば、ヘイト・クライム/ヘイト・スピーチとは「人種・民族等の属性に着目した差別とその煽動(せんどう)による犯罪」を指し、「前者はその暴力的側面、後者は言動による側面に着目した概念」である。歴史的な植民地主義をルーツとし、近年、世界的現象として、その激化が見られる。現代のグローバリゼーションのなかで貧富の格差が増大し、それによる「挫折感や挫折への恐怖」が下からのヘイトを生み、それが政府の上からのヘイトと呼応し合っているという。
本書ではその日本的状況を取り上げる。執筆者の属性や立場性の問題の検証を前提に、「大和民族(和人、やまとんちゅ)と総称されることになる人々が植民地主義の主要な担い手」だとして、まず日本人自ら己と日本社会を問う。次に「在日朝鮮人、アイヌ、琉球に対する差別とヘイト」とそれへの抵抗を各当事者が報告する。
私は本書を読みながら、被植民者側の在日朝鮮、アイヌ、琉球がつながるにはどうすればよいかを考えていた。なぜなら、1903年の人類館事件以来、琉球人は、共に差別・陳列された者達に対し、差別者・植民者に同化した眼差しを向け、「私はこの者達とはちがう」として、差別から逃れようとしてきた歴史があり、それはまだ克服されていないからである。
本書において、この点から注目すべきは辛淑玉(しんすご)氏の「『ニュース女子』問題とは何か」である。在日朝鮮人女性である辛氏は、基地問題で琉球人に連帯し、日本人との橋渡し役も担おうとしたため、沖縄ヘイトを撒き散らすテレビ番組で個人名をあげられヘイト攻撃の的にされた。それ以後、日常生活もままならなくなるようなヘイトにさらされ、現在はドイツに亡命中だそうだ。身を守るために、生まれ育った土地を離れなければならなくなるほどに、辛氏を追いつめたものが植民地主義とジェンダーによる差別と憎悪である。この事態は他人事などでは決してない。辛氏が受けた侮辱は私達にも向けられている。
(知念ウシ むぬかちゃー)
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執筆者(掲載順) 前田朗、中野敏男、香山リカ、安田浩一、野平晋作、乗松聡子、金東鶴、辛淑玉、朴金優綺、結城幸司、清水裕二、石原真衣、島袋純、高良沙哉、新垣毅、宮城隆尋、松島泰勝、木村朗
三一書房 (2018-02-01)
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