「自分は沖縄人」と意識傾く 元外交官・佐藤優氏 


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琉球新報連載「ウチナー評論」執筆10年を迎えた講演会を前にインタビューに答える佐藤優氏=7日、都内の日本記者クラブ

 琉球新報連載「ウチナー評論」を10年にわたり書き続けている作家で元外務省主任分析官の佐藤優さんが7日、琉球新報ホールで11日に催される記念講演会を前に本紙インタビューに応じた。執筆開始当初は米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設もやむを得ないと考えていた佐藤さんだが、連載を重ねる中で「日本側の差別対応が明らかになるにつれ、自分が沖縄人であるという意識に傾いていった」と自身の心境の変化も振り返った。沖縄のアイデンティティーにとって重要となる琉球語の正書法の確立に取り組む考えを示した。 (聞き手 滝本匠)

 ―10年連載を続けて自身に変化は。

 「変化は大きい。宮里昭也琉球新報社元会長から沖縄と向き合ってみたらと勧められてコラムは始まった。新聞連載は編集部と読者に支えられないと長く続かない。読者と一緒に歩いている」

 「実は当時は、辺野古移設は政府がやることでやむを得ないと思っていた。日本と沖縄との関係を正確に見ることができていなかった。自分の中にある沖縄人と日本人の複合アイデンティティーを見つめる中で『ウチナー評論』はとてもよかった。その中で自分の意識が『沖縄人である』ということに傾いていった」

 ―沖縄人のアイデンティティーとは。

 「四つのカテゴリーがある。1番は完全な日本人。先住民族という主張は間違っており、差別なんてもはやないと思う人だ。2番目は10年前はマジョリティーだった沖縄系日本人。沖縄の文化や食事に愛着があるが普段は日本人だ沖縄人だなどとは考えない。沖縄への誤解に触れても聞き流す」

 「それが今、大きくなっているのが3番目の日本系沖縄人。基本は沖縄人で、日本全体のために沖縄が犠牲になるのは勘弁してくれと。究極的に日本人か沖縄人かを迫られると沖縄人を選択する。この象徴が翁長雄志知事だ。自民党県連幹事長時代はむしろ辺野古移設推進派で、日本全体のためには甘受しないといけないことがあるとの思いが強かった。だが沖縄に対する日本政府の無理解や差別対応に対し、名誉と尊厳のある沖縄人として対等の立場で加わるという気構えの人が増えている。その機関車の大きな役割を果たしているのが琉球新報だ」

 「4番目は琉球人。独立論にはくみしないが、沖縄の自己決定権を確立していくということにおいては考えは一緒だ」

 ―アイデンティティーのほかのこだわりは。

 「教育だ。沖縄戦で生き残った母の経験は、自分で判断できる根拠は高等教育を受けたからだということだった。沖縄の教育水準は決して低くない。残りの人生は沖縄人としてのアイデンティティーに基点を置き、それを形にするのは教育だと思っている」

 「常に沖縄は政治のいろいろな嵐にさらされ、沖縄人同士が分断されてしまう。沖縄に分断を持ち込むような評論はしたくない。団結しなければならないんだと強く意識するようになっている」

 ―今後の取り組みは。

 「琉球語の正書法の確立に取り組みたい。そこでは琉球新報に期待している。世界のウチナーンチュのことも考えると、第1書式はローマ字がいい。イスラエルや東欧をみると、自言語で基礎教育をきちんとやると多言語社会への対応が強くなる。大学入試改革でも沖縄では琉球史を科目に盛り込むこともいい。文化によって政治を包み込んでいくということだ」