『みやこの祭祀 宮古島市史第二巻祭祀編(上) 重点地域調査』 「今」に順応、圧倒される豊かさ


社会
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『みやこの祭祀 宮古島市史第二巻祭祀編(上) 重点地域調査』宮古島市教育委員会編 宮古島市教育委員会・5千円

 宮古島市史の祭祀(さいし)編は、「重点地域調査」による成果と「悉皆(しっかい)調査」による成果の2分冊での刊行が計画され、本書は「重点地域調査」の成果に当たる。

 重点地域に選ばれたのは、成立の時期と事情がそれぞれ異なる宮国(旧上野村)、福里(旧城辺町)、宮原(旧平良市)の3村落で、宮国は1771年の大津波による被害の後に海岸近くから背後の高台に移動して再建された村、福里は1875年に首里王府の政策によってつくられた村、宮原は明治以降に各地からの移住者によって創建された村である。村落創建の事情の違いが祭祀の内容等にどのように反映しているかという視点から本書を読み解くことは、興味深い作業になりそうである。

 一読して宮古の祭祀世界の豊かさに圧倒され、同時に多くのことを本書から学ぶことができた。宮国では祭祀に参加する人をサスというが、女性のサスと並んでシューと呼ばれる男性サスがいる点はその一つである。

 祭祀の分類も興味深い。祭祀はニガイとプーイに分けられ、プーイは日本古語の「祝ぐ、寿ぐ」に関連する語とされ、神々への収穫感謝や豊作の予祝などが該当する。ニガイは「願い」の謂(いい)であるが、神に助けを求めるタスキ・ニガイ(助け願い)と現状の改善を図るタミ・ニガイ(矯(た)め願い)に分けられるという。かつて宮古上布の機織り場でもあった村の公民館に多様な神が祀(まつ)られ、村落祭祀の主要な祭場になっている事実も評者の関心を引いた。

 テーマパーク「ドイツ村」の繁栄と職員の健康を願う「ドイツ村ニガイ」、自家用車や農機具の運転の安全を願う「車ダスキ」、仕事の成功などに関わる「仕事ダスキ」などのユニークな祭祀の存在は、宮古の祭祀がその時々の社会の状況にうまく順応する性格を備えていることを教えてくれる。

 今日、沖縄の祭祀文化が衰退の一途にあることはいなめない事実である。そうした中、祭祀の詳細な記録を後世に残すことはその時代に居合わせた者の責務であり、その意味でも本書刊行の意義はきわめて大きいと言える。(赤嶺政信・琉球大学教授)

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 宮古島市史編さん委員会の下に、編さん委員11人で構成する「祭祀編小委員会」を設置し、実地調査、聞き取り調査をした。祭祀編は(上)(下)の2巻構成。第1巻は通史編で、今回は第2巻「祭祀編」(上)を刊行した。