『沖縄エッセイスト・クラブ作品集35』 31人の人生 味わえる随筆


社会
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『沖縄エッセイスト・クラブ作品集35』沖縄エッセイスト・クラブ編 新星出版・1500円

 作品集35の執筆者はバラエティーに富んでおり、沖縄では著名な方々も多い。それぞれの作品には、肩書きからは見えない感性や思いやりなどを感じることができる。31人の作品の内、以下十数点を紹介したい。

 伊佐節子氏は、那覇市内とは思えぬ自宅から聞こえる虫や鳥の鳴き声、日々の営みから発せられる音などを、細やかな観察心で綴(つづ)っている。稲嶺惠一氏は役職上関わりを持った安室奈美恵さんについて、彼女の芯の強さや沖縄サミット当時のエピソードや彼女の引退後に思いを馳(は)せる。永吉京子氏は戦争を生き抜いた者として、戦争の愚かさを短歌で詠み、平和の尊さを実感させる。金城弘子氏は行動するシニア世代の見本のような生き方で、生きがいを見つけた人の強さが伝わる。大城盛光氏はライフワークとして『おもろ』における「みお」の原風景とのマッチングの旅を記す。吉田朝啓氏は、地方自治体などへ地域創生のユニークなアイディアを提言している。

 大宜見義夫氏は児童精神科医として、発達障害のある子どもに共感し良さを発見する治療法は、子どもへの深い愛情が感じられる。謝花秀子氏は程順則が関わる詩歌を通して、海を超えた中国との関わりや思想を掘り起こしたエッセイ、古(いにしえ)の琉球王国の偉人のスケールの大きさが学べる。恩田和世氏は看護学校の教え子の急逝への慟哭(どうこく)で、命のはかなさが身につまされる。金城光男氏の、地球の裏側に住む親族との血縁の強さは、これぞウチナーンチュ魂と思わしめてくれる。いなみ悦氏は自身の琉歌創作の足取りと、時代の世相を織りなすウチナー口に、望みを託す。

 執筆者の根底に脈打つ沖縄独特の歴史、文化、精神風土が、今なお力強く生きて私たちを形つくっているのだと感じられる作品が多い。気のおもむくままに作品を取り上げたが、他の作品も興味深い内容となっている。字数の関係で紹介できないのが惜しい。

(北中城村教育長・砂川惠重)

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 沖縄エッセイスト・クラブ 「作品集35」は会員31人が寄稿している。同クラブは1983年以降年に1回、合同エッセイ集を発刊している。

 

沖縄エッセイスト・クラブ編
四六判 288頁

¥1,389(税抜き)